資本コストの基本となる加重平均資本コストについてわかりやすく解説

投資家は会社に資金提供をします。会社の経営陣は、投資家が収益を受け取れるように資金を活用しなければいけません。

経営陣が投資家の要求利回りを達成できなければ、投資家はその会社から資金を回収し、要求利回りを達成できる別の会社に投資をします。

よって、投資家の要求利回り(資本の機会費用)は、会社の資本コストと呼ばれます。

会社の資本コストは、長期の投資プロジェクトにおける将来キャッシュフローの割引率に適用されます。なぜならば、資本コストより高い収益性の投資は企業価値の向上となります。そして、企業価値の向上こそ投資家(株主)への収益を増加させるからである。

尚、一般的には短期資金ニーズには、資本コストは使用しません。いわゆる、運転資金には使用しないということです。


資本コスト構成

会社の資金調達は、債務(社債、借入金等)、優先株式、普通株式の3つの要素で構成されていす。

  • 債務コストは、債務に対する税引後利子で計算します。(税額控除可能であるため)。

実効利率 x (1.0 – 税率)

  • 優先株式コストは、配当利回りを使用して計算します。

優先株式の現金配当/優先株式の市場価格

  • 普通株式コストは、配当利回りを使用して計算します。

普通株式の現金配当/普通株式の時価

利益剰余金のコストは普通株式と同じであるとみなされる(会社の利益剰余金は、本質的には株主に紐づくお金であり、資本コストを上回る投資ができないのであれば、配当の形で普通株主に分配するべきであるため)。

株主は、会社からの配当支払いは法的な義務がなく、会社清算の際は株主は債権者よりも劣後した受取りになるため、高いリスクを取っている。そのため、株主は会社に対してより高い要求利回りを望むことになることから、株式での資本調達は負債よりも高くなります。

加重平均資本コスト(Weighted-Average Cost of Capital:WACC)

経営者は、会社の目標とする資本構成比率を決定します。例えば、10%の債務、20%の優先株式、70%の普通株式などです。

例題:WACCの計算

ある会社の財務データが下記のようであったとします。

資本構成 帳簿価額(千円) 市場価格(千円)
社債 11.4% 2,000 2,200
優先株式 11.5% 4,000 4,600
普通株式 12,000 14,000
利益剰余金 1,200 1,200
合計 19,200 22,000

会社の加重平均資本コスト(WACC)は、資本構成割合で計算した複合収益率です。加重する際は、簿価ではなく市場価値に基いて計算します。なぜならば、投資家は現状の企業価値を基に投資を決めるからです。

上記の例でWACCを計算する。ここでは、普通株主の要求利回りは16%、税率は35%とします。

債務コスト = 実効利率 x (1.0 – 税率)
= 11.4% × (1.0 – 0.35)
= 7.41%

優先株式コスト = 現金配当/優先株式の市場価格
= (4,000,000 x 11.5%)÷ 4,600,000
= 10.0%

会社は、資本の各資本構成のコストに、その構成要素が表す市場価値ベースの割合を掛けて、WACCを決定することができます。

資本構成 市場価格
(千円)
割合 コスト 加重コスト
社債
11.4%
2,200 10.00% × 7.41% × 0.7410%
優先株式
11.5%
4,600 20.91% × 10.0% × 2.0909%
普通株式 14,000 63.64% × 16.0% × 10.1824%
利益剰余金 1,200 5.45% × 16.0% × 0.8727%
合計 22,000 100.00% 13.8870%

利益剰余金のコストは普通株式と同じです。
会社は13.8870%(WACC)を超える期待収益率の投資を実行することになります。WACCを超える投資からは追加のフリー・キャッシュ・フローが生み出され、株主に企業価値の向上をもたらすことができる。

優先株式がない場合の税引後WACCの一般式は次のとおりです。

WACC = E/V × Re + D/V × Rd × (1 – T)

Re = 普通株式のコスト
Rd = 債務(社債、借入金)のコスト
E = 普通株式の市場価格
D = 債務(社債、借入金)の市場価値
T = 法人税率
V = D + E =総資本額

投資理論では、会社の最適資本モデルを示します。 最適資本モデルは、株主資本の最大化は加重平均資本コストを最小限に抑えることから生じると考えている。 よって、経営陣の焦点は、1株あたりの利益最大化ではない(EPSは、より多くの負債を取ることによって増加させることができるが、負債はリスクを増加させる)。

加重平均資本コストの関係を以下に示す。

会社はこの最適点(Optimal Capital Structure)を正確に把握することはできません。したがって、会社は常に試行錯誤しながら最適範囲を探索しています。

限界資本コスト(Marginal Cost of Capital:MCC)

内部利益からの資本は、最も費用がかからない資本ですが、会社は新規投資するために内部利益だけに頼るわけには行きません。また、会社の長期的に必要な資本を内部利益だけで満たすことはできないことがほとんどです。

また、会社の最適資本構造を維持するためには、ある時点で新しい外部資本の調達が必要となります。限界資本コストは、既存の内部利益の後に調達される新たな資本のコストです。

株主が会社の外部資本の調達によるリスク増加によって、より高い利回りを要求することになります。したがって、追加される外部資本の調達1単位あたりの追加コストは高くなります。

例えば、会社が投資計画を達成するために新たに4,000,000ドルの資金が必要であると判断した。 利益剰余金は1,200,000ドルとなります。長期借入金10%、優先株式20%、普通株式70%の資本構成は維持したいと考えています。 外部資金調達として2,800,000ドルが必要となり、この調達により現在のWACCをいくらか上回ることになります。

新しい資本コスト

新しい資本(外部資本とも呼ばれる)のコストは、会社が資金を得ると同時に支払いが生じるコストになります。

金利が変動しているため、新しい債務コストは過去の金利または現状の債務コスト水準と同じではありません。また、会社の債務負担がすでにかなり大きい場合、新たな債務者はリスク増加に伴い高い金利を要求することがあります。

年間利息/実質発行金額

また、債務コストは利息が税控除となるため、税率が上昇すると魅力的な調達手段となります。

株式(債券は通常手数料も価格に含まれています)の新たな発行は、手数料分の控除が発生することにより、資本コストを引き上げることになります。次式は、新たな優先株式のコスト計算です。

次の配当額/実質発行金額

新しい普通株式のコストは、定率配当割引モデルの形態となり、将来的に成長して配当が増えることを前提としています(普通株式のコストにも手数料の控除による資本コストの引き上げがあります)。

(次回配当額/実質発行額) + 配当成長率

新しい普通株式の発行は、一般的には創業間もない成長企業が多く利用します。成熟企業は、発行費用(手数料)、新しい普通株式の発行による株価への悪影響もあるため、ほとんどありません。

まとめ

資本コストの初級から中級編です。個人投資家でも資本コストは何かを知ることは非常に重要ですので何度か読み返して、理解してもらえれば幸いです。