内部収益率は資産運用やファイナンスを知る上での王道中の王道である考え方です。

金融商品の評価において、全ての基礎と言っても過言ではない内容です。

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内部収益率(Internal Rate of Return:IRR)

内部収益率(IRR)とは、投資対象(金融商品)の期待キャッシュフローの収益率をパーセンテージ(%)で表したものです。

IRRは、投資対象のNPVがゼロになる割引率です。もっと、厳密に言うと、期待キャッシュインフローと期待キャッシュ・アウトフローの正味現在価値が同値となる割引率です。

IRRが投資家の期待収益率よりも高い場合は、投資対象(金融商品)として望ましいと考えられます。

例:7%の期待収益率で正味キャッシュフローを割引く

仮に、下表の正味キャッシュフローを持つ投資対象(金融商品)があります。この投資対象に投資家が期待収益率7%と想定した場合の正味現在価値を計算する。

経過年数 正味キャッシュフロー 7%の現在価値ファクター 割引後キャッシュフロー
投資額   -501,000  1.00000 -501,000 
77,000 0.93458 71,963 
77,000 0.87344 67,255 
77,000 0.81630 62,855 
77,000 0.76290 58,743 
85,000 0.71299 60,604 
85,000 0.66634 56,639 
85,000 0.62275 52,934 
101,800 0.58201 59,249 
現在価値  -10,758  

因みに、6%の期待収益率で同じ正味キャッシュフローを割引いた結果はプラス(9,635)となります。こちらの記事参照

よって、この金融商品のIRRは、6%から7%の間にあることがわかります。実際に計算すると、約6.5%になります。

個人投資家の期待収益率が6%であれば、正味現在価値法で意思決定した結果と同じになり、投資対象(金融商品)として望ましいと考えられます。

IRR法の落とし穴

IRR法の結果だけによって投資対象の意思決定をすると、誤った判断をする可能性があります。その問題が、『デカルトの符号法則』『相互排他的投資案』です。

以下の例題により説明します。

例題:デカルトの符号法則

2つの投資対象があり、その正味キャッシュフローは以下となります。

0期目 1期目
投資対象 X -222,240 240,000
投資対象 Y 222,240 -240,000

キャッシュフローの合計額(初期投資額と1期間目)は絶対値で同じ(17,760)ですが、プラスマイナスの方向が逆です。

この2つの投資対象の選択において、投資家が素直に考えれば、キャッシュインが早く、キャッシュアウトが遅い投資対象が優れていると考えるでしょう。それは、早くキャッシュを手にした方が時間価値が高いと考えるからです。

仮に、投資家がこの投資対象の期待収益率を8%で計算しようと考えたとします。

<投資対象 X>

0期目:-222,240 × 1.000 = -222,240

1期目:240,000 × 0.926 = 222,240

であり、合計値はゼロになります。

<投資対象 Y>

0期目:222,240 × 1.000 = 222,240

1期目:-240,000 × 0.926 = -222,240

であり、合計値はゼロになります。

この場合、2つの投資対象の正味現在価値の合計がゼロとなるから、IRRは8%と考えて良いのでしょうか?

ここで、異なる期待収益率で計算するとどうなるか確認してみましょう。

仮に、投資家がこの投資対象の期待収益率を6%で計算しようと考えたとします。

<投資対象 X>

0期目:-222,240 × 1.000 = -222,240

1期目:240,000 × 0.943 = 226,320

であり、合計値は4,080になります。

<投資対象 Y>

0期目:222,240 × 1.000 = 222,240

1期目:-240,000 × 0.943 = -226,320

であり、合計値は-4,080になります。

2つの投資対象が8%の時は同じリターンになるのに、それよりも低い6%のリターンで計算すると、キャッシュフローがより早い投資対象は正味現在価値の合計値がマイナスになり、投資対象として望ましくないとなることがわかります。

これは、明らかに同じIRRを持つような投資対象に対してキャシュフローのプラスマイナスを考えないでIRRを計算することで間違った判断をしてしまう可能性がある例です。

多期間の正味キャッシュフローで、プラスマイナスのパターンが発生する場合は、IRRが複数存在したり、IRRが実数値で存在しない場合があります。

これを、『デカルトの符号法則』といいます。

このような正味キャッシュフローの投資対象は、IRR法で判断すること自体が間違いであり、NPV法を適用する必要があります。

IRR法を適用する基本的な正味キャッシュフローは、0期目(初期投資時点)で投資額をキャッシュアウトして、その後はキャッシュインしかない場合です。一度しかプラスマイナスの変化がない。

例題:相互排他的投資案

2つの投資対象があり、その正味キャッシュフローとIRRは以下となります。

0期目 1期目 IRR
投資対象 S  -178,571 200,000 12%
投資対象 T -300,000  330,000 10%

投資家が、投資対象をどちらかひとつしか選択できない場合、IRRだけを使用すると、IRRの高い投資対象Sになると考えられます。

しかし、仮に、投資家がこの投資対象の期待収益率を6%で計算しようと考えると、別の姿が見えてきます。

<投資対象 S>

0期目:-178,571 × 1.000 = -178,571

1期目:200,000 × 0.943 = 188,600

であり、合計値は10,029になります。

<投資対象 T>

0期目:-300,000 × 1.000 = -300,000

1期目:330,000 × 0.943 = 311,190

であり、合計値は11,190になります。

投資対象Sの方がIRRは高いことがわかりますが、投資対象Tは投資対象Sと比べて正味現在価値が高くなり、キャッシュポジションを高めてくれるためメリットがあります。

このように、どちらかの投資対象も破棄できない上で、いずれかひとつしか選択できなく、NPV法とIRR法で選択の優先順位が変わる投資対象を『相互排他的投資案』といいます。

では、このような場合に最終的にどちらを選択するのかと言うと、NPV法を優先するべきとされています。

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キャッシュフローパターンの比較

個人投資家は、往々にして相互排他的投資案の2つの投資対象から1つを選ばなければいけないことが多いです。

例えば、1つの投資対象は、初期期間でキャシュインが多く、その後に大幅に減少するが全期間を通して安定するとします。

基本的に、投資家の期待収益率が高いほど、投資対象のキャッシュフローは早くプラスになる必要があります。また、投資家の期待収益率が低いほど、長期で確実なキャッシュフローを望むと言われています。

例題:正味キャッシュフローの比較

2つの投資対象があり、その正味キャッシュフローは以下となります。

0期目 1期目 2期目 3期目 4期目
投資対象 K -200,000 140,000 100,000
投資対象 L -200,000 65,000 65,000 65,000 65,000

2つの投資対象は割引率(Discount Rate)と正味現在価値(NPV)のグラフにより、投資家の意思決定を手助けします。

このグラフは、投資家の意思決定に実用的な点があります。それは下記の点です。

  • 割引率のセンシティビティ(感応度)が収益率としてわかる。
    • 期待収益率が7.9625%であれば、2つの投資対象は同じ収益率となり、その正味現在価値は、15,468です。
    • 期待収益率が7.9625%未満であれば、キャッシュイン期間が長い投資対象Lを選択します。
    • 期待収益率が7.9625%より高ければ、キャッシュイン期間が短い投資対象Kを選択します。
  • 割引率のセンシティビティ(感応度)が収益額としてわかる。
    • 期待収益率が13.899%より大きいと、投資対象Kはマイナスとなります(IRR = 13.899%)。
    • 期待収益率が11.388%より大きいと、投資対象Lはマイナスとなります(IRR = 11.388%)。

NPVとIRRの比較

投資家が資産運用する上で、キャッシュフローが再投資によってキャッシュフローを生み出すことになりますが、その際の再投資がどの程度のキャッシュフローを生むことになっているのかは重要な点になります。

再投資率は、NPV法とIRR法のどちらを選択するかによって前提が異なります。

  • NPV法は、投資からのキャッシュ・フローを期待収益率の割引率で再投資している前提です。
  • IRR法は、IRRの割引率(NPVがゼロの割引率)で再投資している前提です。

投資対象がお互いに独立している場合、NPV法とIRR法で同じ結果の意思決定となります。相互排他的投資案の場合は、どちらかが棄却されます。

例題:NPV法とIRR法の比較

2つの投資対象があり、その正味キャッシュフローとその他の数値は以下となります。

初期投資額 キャッシュフロー IRR NPV(10%)
投資対象 A  1,000 1,200 20% 91
投資対象 B 50 100 100% 41
  • IRR法による優先順位付け:B、A
  • NPV法による優先順位付け:A、B
  • 相互排他的投資案である場合、NPV法とIRR法では優先順位がことなります。仮にIRR法で意思決定する投資家であれば、Bを選択します。ただし、基本的にはNPV法を優先するべきですので、理論的にはAです。実際は投資家の置かれた状況により選択がどちらになっても間違いではないです。

NPV法もIRR法も、個人投資家の利益最大化する観点の手法です。この例題は、正味現在価値の分析をすることでより明確化します。

NPV法とIRR法のグラフにより、投資家の意思決定を手助けします。

個人投資家の利益を最大化するには、最大のIRRではなく、NPVが最大化する投資対象を選ぶべきなのです。IRR法は利益をパーセンテージ(%)表記する尺度ですが、NPV法は利益を絶対額で表記する尺度だからです。

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