金融はリスク・リターンの世界です。

 

リスクがあるからリターンがある』という投資や資産運用における至極当たり前の前提が、あやふやな人が多いです。

 

たとえば、リターンは期待利回りという数値で表現されるのに対して、リスクは、「高い、低い」などの文言だけで表現されることに違和感を感じています。むしろ、違和感を感じるべきです。

 

SNSで発信される情報のなかには、期待利回りだけでリスクにまったく言及しないシミュレーションもあります(いわゆる、期待利回りを〇〇年複利運用したら△△万円になる)。

 

僕は投資や資産運用をビジネスとして15年間経験しましたし、今は現役の個人投資家です。そこで、リスク・リターンを定量分析という視点から投資判断に必要なのか?不要なのかについて考えてみます。

 

結論から言うと、「リスク・リターンの(深入りしない程度の)定量分析は役立つ情報」と考えます。

 

リスク・リターンとは何を意味するのか

リスクは乖離幅で、リターンは将来価格を意味します。

 

他にも定義はありますが、このように理解するとわかりやすいです。

 

リスクは乖離幅なのでプラス変動もマイナス変動も含みますし、リターンは将来価格なので通常は期待リターンと呼び、実現すれば、実現リターンやリターンとなります。

 

リスク・リターンを定量分析するメリットは、

  • 数値は客観的な指標にできる
  • 数値は金融商品を比較できる
  • 数値は判断の出発点にできる

が大きなところだと考えています。

 

数値は客観的な指標にできる

「りんごが1つあります。」と言われれば、世界中の誰でも同じ個数のりんごを共有することに異論はないはずです。

 

しかし、「この金融商品は期待リターンが高いから投資する価値がありますよ。」とか「この金融商品はリスクが低いから安全な資産運用になります。」と言われても、同じリスク・リターンを共有できているかはわかりません。

 

なぜなら、“高い”や”低い”の程度は個人差があるからです。

 

ただし、期待リターンが10%でリスクが15%と言われれば、リスク・リターンの合理性は別として、少なくとも同じ数値を共有できます。

 

同じ数値を共有できれば、その数値が指標として高いのか低いのかの議論や判断はできます。

 

数値は金融商品を比較できる

「日本株式市場は将来の人口減少もあり、経済成長も見込めませんから日本株への投資はリスクに対してリターンが見込めない可能性があります。」

 

「米国株式市場はリーマンショックから数年で回復しましたし、その後の経済成長も著しいので、米国株への投資はリスクに対してリターンが見込める可能性があります。」

 

などの記事を見かけます。もちろん、これらの情報で納得して投資判断するのは否定しません。

 

ただ、

 

日本株式市場に連動するファンドはどれくらいのリスクに対してどのくらいのリターンだったのか?

米国株式市場に連動するファンドはどれくらいのリスクに対してどのくらいのリターンだったのか?

 

各ファンドの数値を同じ前提で比較すれば、最初の話の根拠になるかもしれません。

 

また、言わずもがなですが、投資判断において金融商品を比較するのは常識です。

 

数値は判断の出発点にできる

投資や資産運用に興味のある人や初めたばかりの人にとっては、リスクとは?リターンとは?からはじまるかもしれません。

 

まったくのゼロからリスク・リターンを考えるときに、数値を出発点にするのはリーズナブルなのです。

 

ここで勘違いしてはいけないのが、投資や資産運用においてリスク・リターンを数値だけで判断するのではなく、数値を出発点に判断するということです。

 

しつこいですが、最終的な判断をするうえでのリスク・リターンは個人の信念になるので、判断根拠は数値とるとは限らないし、なる必要もないでしょう。

 

であれば、出発点をリスク・リターンの定量分析からはじめることが否定されることもないと思います。

 

確率統計で知っておくべきは3つ

リスク・リターンを定量分析するうえで、避けて通れないのが確率統計の知識です。

 

『確率統計』と聞くだけで拒否反応を起こす人がいますが、知っておくべきなのは、『(対数)正規分布』、『平均(μ)』、『標準偏差(σ)』の3つだけで十分です。

 

平均(μ):0、標準偏差(σ):1の(標準)正規分布です。平均と標準偏差だけで分布を記述できるのがメリットです。

 

 

『(対数)正規分布』、『平均(μ)』、『標準偏差(σ)』の詳細な説明はしませんが、参考になるサイトと書籍を紹介します(ご自身でGoogleで調べるのも良いと思います)。

 

 

まったくの知識ゼロからでも読める書籍で、厳密な数式証明を理解しないと進めいない構成にはなっていないので安心してください。

 

もっと定量分析を学びたい人は深く確率統計を追求すればいいのですが、そもそも、高度な数学知識を得たいのではなく、必要最低限の知識でリスク・リターンの定量分析をするのが目的であることを見失わないようにしましょう。

 

尚、なぜリスク・リターンが(対数)正規分布を前提にするのかに疑問を持つ人もいると思いますが、その理由は、

金融工学では、正規分布を前提に置いて分析することが一般的であり、オプションの理論価格を求めるブラックショールズモデルも原資産価格のリターンが正規分布する(厳密には、原資産価格自体の変動が対数正規分布する)ことを仮定している。

(中略)

理論上、金融商品の価格が過去の変動とは一切無関係に連続的にランダム・ウォーク(不規則変動)する場合には、リターンは正規分布することになる。

(出典:野村證券サイト

だからなのです。

 

野村證券のサイトにもありますが、厳密には収益率(リターン)の対数をとったものが正規分布に従います。よって、収益率そのもの(ちゃんと言えば、収益率に1を足した価格比)は対数正規分布に従うことになります。

 

もっと詳しく知りたい人は調べれば情報は得られますが、(対数)正規分布に従うのが一般的な手法なんだと考えてもらえれば問題ないです(他の分布に従う手法もあります)。

 

リスク・リターンの定量分析

FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス(世界47カ国の7,400以上の株式をカバーし、世界の投資可能時価総額98%を占める)に連動する『バンガード・トータル・ワールド・ストックETF(VT)』で分析してみます。

 

VTは、世界の株式市場へ投資できるETFとなります。今回は、2019年5月31日時点の過去3年と過去10年のトータル・リターン(外貨ベース)と標準偏差を使用します。

 

【3年】

トータル・リターン(μ):9.20% 標準偏差(σ):10.99%

【10年】

トータル・リターン(μ):9.59% 標準偏差(σ):13.56%

 

トータル・リターンと標準偏差から対数正規分布を記述します。

 

 

対数正規分布は、正規分布とは異なり釣鐘状の左右対称の図にはなりません。左右非対称で右に裾野が広がる形状になります。

 

そのために、平均値(全体を足した個数で割ったもの)、中央値(全部の個数を並べたときに真ん中にくるもの)、最頻値(全部の中で一番個数の多いもの)は、正規分布では平均値=中央値=最頻値となりますが、対数正規分布はでは異なります。

 

 

覚える必要はないですが、正規分布の平均(μ)と標準偏差(σ)から対数正規分布の平均値(mean)、中央値(median)、最頻値(mode)を導出する数式です。

 

 

さて、この対数正規分布と平均値、中央値、最頻値からどのようなことわかるでしょうか?

 

  • 3年よりも10年のほうが分布の裾野に広がりがある(長期投資でリスクは大きくなる
  • 平均値、中央値、最頻値は、3年でも10年でも8%〜11%の間にある(比較的安定している)
  • 3年でも10年でも、1年後の元本割れリスク(ショートフォール確率)は、約20%強となる(横軸の期待リターンが100%未満の面積)

 

これくらいのことがわかります。

 

公表数値を上手に利用

証券会社をはじめモーニングスター社のような、投資信託やETFの情報を誰にでも自由に無料で提供してくれる会社が増えています。

 

インターネットが進化したおかげで、トータル・リターンや標準偏差などを簡単に入手できるのは大変有り難いです。

 

わざわざファンド価格の過去データを並べてエクセルで計算する必要性はほぼほぼないですね。

 

リスク・リターンを定量分析すると、期待利回りを右肩上がりの直線で増えていく複利利回りのグラフだけで説明するのが大きなミスリードだと気づくと思います。

 

もう少し詳しく説明すると、期待利回りは対数正規分布に従うランダムな株価の動きを時系列に捉えた結果ともいえるのです。

 

(対数)正規分布が正しいわけじゃないし、定量分析は過去を前提

ここまで、リスク・リターンの定量分析をしてきましたが、すべての定量分析が大きな前提の上に成り立っていることを忘れてはいけません。

 

  • (対数)正規分布に従う前提
  • 過去データからの分析が前提

 

Googleで調べれてもわかりますが、株価の変動が(対数)正規分布に従うことに懐疑的な主張があります。

 

少なくとも、ブラックマンデーやリーマンショックなどの大きなイベントが起きると、価格変動が大きくなるので、(対数)正規分布よりも裾野が厚くなることはわかっています(リスクは大きい)。

 

また、定量分析は過去データを前提しています(将来シミュレーションも過去データから変数を算出していることが多い)。

 

現実として、過去は未来を写す鏡ではないので重要性は薄いというのが、定量分析に否定的な人がする主張のひとつだと思います。

 

ただし、現実のリスクが対数正規分布よりも裾野が広がる(ファットテール)と理解しているのならば、調整すればいいだけなのです。

 

過去は未来の鏡ではないですが、ファンドのリスク・リターンがどのようになっていたかは客観的事実です。良いか悪いかは別にして、マーケットで大きなポジションを持つ機関投資家は定量分析をしているのも事実です。

 

投資判断よりも投資後に生かす

あっちこっちに飛びながら話が進んでいますが、リスク・リターンの定量分析についてまとめます。

 

  • (対数)正規分布を前提に定量分析するのは、現段階ではリーズナブルな選択といえる
  • 過去と未来は別だけど、投資判断での指標が何もないのであれば参考にすればよい
  • データと分析が同じならば数値結果は同じになるが、数値結果の解釈は人それぞれになる

 

パッシブ運用、アクティブ運用のどちらをするにしても、投資や資産運用により将来どれだけの利回りを得られるかを考えます。

 

言い換えれば、自分のリスク許容度からリスク・リターンベースのあるべきポートフォリオの姿はモニタリングしておく必要があると思います。

 

あるべきポートフォリオの姿が実際のリスク・リターンと大きく乖離しているならば、リバランスを含めてアクションをとるべきでしょう(リスク・リターンの定量分析を指標としてもよい)。

 

アクティブ運用ならば損切りと利益確定の水準を定量分析結果で決めるのもよいと思います。また、リスク許容量を決めるときの参考にすることもできるでしょう。

 

ただし、定量分析は深入りしない程度にするのがポイントです。

 

((注意)シミュレーションを含めた計算結果は将来のリスク・リターンを保証するものではありませんし、計算ロジックの正確性も担保していませんのでご留意ください。尚、投資や資産運用の最終判断は自己責任でお願いいたしますします。